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臨床屋、隠れ版

気まぐれ更新万歳。ホモ注意。オタク注意。
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無題 (藤水っていうか…)

「…良いの」

―――ホントに…?

誘ってきたのは自分のくせに、今更ながらに問う声。
驚きを帯びていないそれが、単に合意を確認するだけのものだと知ってはいたけど。
もとより、逃げるつもりも理由もない。
「しつこいな。だから良いって言ってるだろ」
不敵に笑みを浮かべてみせれば、相手も満足気に笑った。

恋情など最初から存在しない。
あるのはただ、打算と思惑。―――駆け引きなんて上等なものでもないけれど、ただそんなものの為に、行われる行為。
差し出された手を、取ったのは偶々。
誰でも良いなんて言うつもりはないけど。

(でも)

「水野じゃなきゃ駄目」

耳元で囁かれる、いかにもな戯言。

「…なのは、ホントな?」

―――も、あながち嘘だけなわけでなく。
ただその視線は、自分を通り越して誰かの姿を重ね見る。
彼の姿に、あの男の影を見た―――恐らく、自分と同じように。

身体に触れる手は優しく、知った感触に安堵する。
熱を孕む激しさを知らない、冷たい指。
ここで見知らぬ熱を示されたりしたら、自分は多分、簡単に陥落していた。
まさかそんなことは有り得ないと―――解っていながら、そんなことにならなくて良かったと考えては思わず自嘲する。
肌を撫ぜる。
手が優しいのは、腕の中に居るのが自分だからだ。

どういうつもりなのかと詮索するつもりは無い。
そこに在る感情が、どんなものかを知りはしない。
例えば彼が、自分と寝ることで―――その視線の先の誰かの、何が変わるとしても。
(やっぱヤキモチとか、妬かせたいのかな)
―――普通に考えれば。
そんな子供染みた計略に、加担しているのかと思えばあまりの微笑ましさに苦笑いが零れた。

「藤代」

覆い被さられた体勢のまま、首周りに腕を回し引き寄せる。
唇を寄せ思うままに舌を絡めれば、突然の積極さに驚いたのか、腕を回した身体が一度だけ震えた。
(これは、嫌がらせ)
成功したそれに、少し気分を良くして考える。
このくらいの可愛げ、あいつも見せてくれればいいのにと。

―――嫉妬して、なんて言うつもりは無いから。


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| 笛≫他 | 00:31 | comments(5) | - |
無題 (藤三)

日の落ちた室内を、薄暗い蛍光灯が照らす。
昼間の熱を未だ残したまま。
埃っぽい空気。
砂の気配。
汗の匂い。
上がる息。

―――セックス。

て。
いくらもう誰もいないとは言え、放課後の部室には相応しくない―――最後の、それ。


「…っは、…ッあ!」
体内に入ったそれが抜かれる感覚に、身体が震えた。
思わず捩った首筋に、汗に濡れた髪が落ちてくる。
「…―――っあー…」
気持ち悪い。
「…っち良かった〜」
背に回した腕に力を込めて。
耳元で独り言みたく呟かれた声は、今自分が考えたのとは真反対のそれ。

余裕無く力任せに揺さぶられた身体の下。
古い机はずっと耳障りな音を立てていて、今にも壊れるんじゃないかと始終ヒヤヒヤさせられた。
流石にこんなトコでことに及んだのは初めてで。
そして心外だ。

だって、きっと。
思い出す。
普通の、部活の合間にこんなこと。

「先輩も良かった?」
首筋に埋めたまま傾げるように首を動かされ、甘えを含んだ視線が俺をなぞる。
良くねぇよ!
言いたかったのに、未だ整わない息が邪魔をする。
「は、…っ」
代わりに投げた非難の視線は、恐らく伝わりはしないまま。
「良かったよね?…だって………まだ、息切れたまんまだし」
「ッ、」
「ていうか痙攣、止まんないんでしょ?」
不随意の。
身体の震えを指摘されて、羞恥が走る。
そして、同時に恐怖。
「やめ、触ん…っ、ひッ!」
敏感になり過ぎた身体は、些細な摩擦さえ的確に拾い上げる。
それを解っていて、肌をなぞるように動く指。
「ピクピクしてる」
「やめ…藤代っ」
過ぎた快感にバタつく足は簡単に押さえ込まれ。
「先輩今日、実はすっごい感じてるよね。何で?部室なんてイヤだって言ってたくせに」
意地の悪い、笑む瞳。
「るせ、よ。死ね…!」
擦れた声は負けも同然。
そんな些細なものに興奮して、吹っ飛ぶ理性。
コントロールさえ効かない身体。

何で、なんて。
そんなの。

「所構わずサカってんじゃねーよ、バカ犬」
居残り練習後の着替え中に、動きを遮るように回された腕に、嫌悪も顕に眉を顰めた。
実際、否定の言葉は嘘なんかじゃなく。
昂りは環境のせいじゃなく。
「もーオマエ、ホントそればっかな」
溜息混じりの呆れた声に、予想外に返ったストレートな。
「しょうがないでしょ。だって俺、先輩のこと好きだし」

―――ただの無自覚な、告白に。


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| 笛≫×三 | 20:00 | comments(0) | - |
8/10(服部)記念

「……工藤」

カーテン越し。
月明かりの微かな光だけで、ただうっすらとほの明るい室内。
目を凝らしても、お互いの表情さえ見えるかどうかのそんな中でたった、今。
乱暴な動作で体勢を入れ替えた――土台のベッドが、ぎしりと軋む。

「いきなり…どうしたん」
「………」
身体の下、組み敷いた身体は答えを返すことはせず。
ただ、ばつが悪そうに軽く俯くだけ。
予想内のその反応に、自然と笑みが浮かんだ。
「人のこと煽って。覚悟はできてるんやろなァ?」
「…っ、煽られたのはオメーの勝手だろ!?」
からかうように更に口端を上げれば、返る言葉は可愛げのないもの。
(別に今は、からかうつもりなんてあらへんねけど)
密かに心中で苦笑い。

自分のそれを掠めたものが、彼の唇だと認識するのに暫し要した。
―――ただ、信じられなくて。
目は閉じていたが、眠ってはいなかった。
もとから気配には、敏感な方だ。

「いーや。悪いんはお前や」
誰が。どう、考えても。
「ん…!」
指の力で顎を固定して、再度、強引に唇を合わせた。
今度は自分から。
形だけの嫌がる素振りは、抵抗とも呼べず。
「…じゃあ何で、あんなことしたん?」
角度を変える僅かな隙に、小さく囁く。

「あ、っ」
主導権を奪われて、乱れた息の下。
「…ッ、したかった、からっ」
苦しげに、端的に。
返る返事が僅か不機嫌様な――その理由を知っている。
「俺もしたいわ」
思わず、くすりと笑みが漏れた。
背に回された、シャツを掴む手に力が篭る。

「どうせ誰にでも、そーゆーこと言ってんだろ」
上目遣いで睨む瞳に、滲む怒気。
軽いやり取りには、とても隠しきれない本当の。
「…なんで?せえへんよ、そんなこと」
―――おまえにしか。
耳元で囁いた。
「…嘘」
「嘘、ちゃうし」
身体の下、閉じ込めた細い背が小さく震える。
未だ何か言いたげなまま、俯くその肩を抱きしめた。

「…そんな顔するくらいなら、最初からそんなんせなええやんか」

溜息混じりに呟いた言葉に。
腕の中。
はっと、自分を見上げる顔は既に工藤新一のものではない。
―――人のことを試す振りで、わざわざ自分を傷つけて。
ポーカーフェイスさえ崩した素の、彼の。
そんなことは最初から解っていたと、今度こそからかう様に笑ってみせる。

「せやからおまえだけ言うとるやろ」



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| | 20:05 | comments(0) | - |
7/29(渋誕)記念 (渋藤)

「キャプテンお帰りなさーい!」

消灯時間を過ぎ、寮内を一回りして戻った自室。
本来ならあり得ない明るい声に出迎えられ、渋沢はひくりと眉を震わせた。
落ち着きの無い部員達に、消灯と睡眠を促して戻ってきたところだ。
まさか、自分の部屋こそが寮内の規律を思い切り乱しているなんて―――たとえ、今更だとしても。
「何をしているんだ、藤代」
敢えてわざと、低い声を出して問いかける。
目の前の後輩に向かって。

「…それにその格好」
ちらりと視線を走らせれば、普段の寝間着とは明らかに異なる綿の着物。
彼にしては少々地味な、紺色に擦れ縞模様のそれを指摘すれば、返ってくるのは満面の笑顔。
「似合うっしょ!?」
洋服にはあり得ない、広い袖を振ってみせる。
薄手の浴衣は今日のイベント事のため、久しぶりにダンボールから引っ張り出されたもの。
「キャプテン来ないから、昼間見せれなかったし、もったいないと思って〜」
それは夕刻に始まった、花火大会に他ならなかったはずで。
明るい声でそう言いながら、甘えた仕草で首に手を回される―――そんなことのためでは、決して無かったはずなのに。

「着替えなかったのか?」
「1回風呂入ったけど、また着ちゃいました」
呆れた声で問えば、飄々とした答え。
「キャプテンの夜這いに行こうと思って♪こういうの、けっこう好きでしょ?」
胸元の合わせさえちらつかせ。
それは、最初に問うた、質問の。

「…馬鹿なこと言ってないで、さっさと自分の部屋に戻れ」
溜息とともに、回された腕をやんわりと解く。
花火大会の余韻を引き摺って、どこか浮れた寮内の雰囲気。
ここに、いるはずのない人間。
いるはずの、人間。
「まったく三上まで、何をやっているんだ…」
他の部員に示しがつかない無理矢理の部屋交換に、ぽつりと呟きが漏れる。
回された腕から逃れ、反転かけた身体は、しかし。
「ダメ!」
「っ、」
再度かかった引き寄せる力に動きを止める。

「…行っちゃだめ」
「藤代…?」
今度は後ろから、背に抱きつくように回る腕。
ぎゅう、と篭る力に感じるのは、戸惑いと。
「花火大会に、来なかったのは見たくなかったからなんでしょ?」
顔を伏せ俯いたまま、語りかける。
後輩の物言いは、その口調に反し甘えた風味を含みはせず。
「何、を」
するんだ。
見上げる姿勢で合わせられた唇は、渋沢の後の言葉を飲み込んだ。

―――見たくなかったからなんでしょ?
何をと問うたのは、その内容では決して無く。

「キャプテン、あと30分」
口付けの合間に示された時計は、もうすぐ日付が変わることを教えている。
あと、30分―――したら。
「誕生日だから、特別サービスで名前くらい呼んでもいいですよ」
抱きしめた、身体とは別の。
自分を見上げ笑う後輩に、どんな表情を返せばいいのかも解らず、渋沢は再度唇を合わせた。
せめて閉じる目が、自分を見なければいい。
見えなければ、いい。
「…莫迦だな」
慣れた振りで、莫迦な振りで。
どんな顔をしているのかなんて。



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| 笛≫他 | 20:14 | comments(0) | - |
7/8(シゲ誕)記念 (シゲタツ)

7月7日、どしゃぶりの雨。
「大丈夫よ、明日は晴れるから」
夜の電話越しに、小島が言う。
「1日遅れの七夕ね。楽しみにしてるわ」
久しぶりのデートの約束に、そんな可愛いことをいう奴だったか?とふと思う。
些細な違和感はしかし、明るい声にすぐにかき消され。
待ち合わせの場所にしていた小さな喫茶店の扉を開けて初めて、楽しげな声の、その本当の意味を知る。

―――素知らぬ顔で、隣のテーブルに腰を下ろした。

事務的な対応のウェイトレスを、待ち合わせだと告げて下がらせる。
テーブルに残された、水滴を纏ったグラスに手を伸ばして口をつけた、その瞬間。
音と共に、テーブルに置かれる新しいグラス。
下がらせた、ウェイトレスじゃない――もちろん。
「…そういうこと、するなよ」
行儀が悪いと、思わず溜息が漏れた。
隣のテーブルから、わざわざグラス持って。
来ることは―――解ってたけど。
「せやかて自分、気付いとるくせに無視するやん」
気付くなという方が難しい、扉を開けた瞬間に目に入った人目につく金の髪。

非難的な言葉とは裏腹に、奴は上機嫌の笑みを浮かべ。
机に置いたグラスはそのままに、椅子を引いて向かい合わせに席に着く。
「何勝手に座ってんだよ」
「あかんかった?」
「俺は待ち合わせしてんだよっ」
見れば解るだろ、と、思わず口調が荒くなった。
当然。
その時にはもう、知っていたけれど。
待ち人が、ここには来ないという事。

「あんなぁタツボン、俺今日誕生日やねん」
「…お前人の話聞いてる?」
全く噛み合わない会話にげんなりと肩を落とす。
もちろん、テーブルを離れる気配なんて微塵もなく。
人の怒りもイラつきも全て笑顔で吸収して、やりたいようにやるコイツのやり方は昔から全く変わってなんかなくて。
「小島からはもうプレゼント貰ってんねけどな?」
意地の悪い言い回しが、癇に障る。
「そりゃ悪かったな。生憎俺は、すぐにお前にやれる物なんて何も持ってない」
「せやなぁ。俺の誕生日なんか忘れて、デートの約束するくらいやもんなぁ」
からかう瞳が、全てを見透かして笑んだ。

ホントに忘れていたなら、そんな約束、していないと。

どしゃぶりの雨。
約束の無い逢瀬に、かける期待はやり場無く。

でもふいに、小島の弾んだ声を思い出した。



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| 笛≫他 | 20:17 | comments(0) | - |
16 間接キス

「バレンタインは来月じゃなかったですっけ」

寮の談話室のテーブルに広げられた、元は綺麗にラッピングされていた形跡のあるそれら。
女の子達がある時期にこぞって買いに走るお菓子類でありながら――確かに僅か、時期を外している。
今はまだ一月の末だ。
お菓子会社の決戦日にはまだ早い。

談話室の端に設置された共同冷蔵庫の扉を開けながら、その様子をぼんやりと眺め。
笠井竹巳は思わず、そう尋ねた。
16
「…へえ、三上先輩誕生日なんですか」

「おまえね…」
という三上の呆れた視線と、場の先輩陣の説明を受け、笠井はようやく事態を把握した。
そういえば、練習中のギャラリーも今日は普段より二割増くらいに多かった気がしないでもない。

―――武蔵森のサッカー部員は、比較的モテる。
活躍次第では地元の雑誌や新聞の記事になることもあるので、実は学園外にもファンが大勢居たりする。
そしてキャプテンの渋沢と副キャプテンの三上は、その中でもかなり人気があるのだ。
まぁ実際、イベント事の際に大量に渡されるプレゼントの殆どは、義理チョコ――もとい義理プレゼントがほとんどで、中学生としては無難なお菓子類が殆ど。
「きゃー渡しちゃった!」と言ってはきゃいきゃい喜ぶ程度のものなのだ。
さながら身近なアイドルといったところか。(中には恐ろしく本気の気合の篭ったものもあるにはあるのだが、怖いのでそれには触れないでおく)

そうしてテーブルに広げられているのは、今日の三上の戦利品の一部なわけだが―――。
「つーかプレゼントとかやるくらいなら、ちゃんと調べろっつーの。俺はそんなに甘いもの好きそうに見えんのかよッ」
不機嫌そうに吐き捨てた三上の言葉通り、そこには比較的糖度の高そうなお菓子が並んでいた。
もともと誕生日のプレゼント漁りは松葉寮の伝統行事でもある。
そうして本人の了承があれば、それを貰ってもいいという暗黙のルールもある。
甘いものの嫌いな三上へのお菓子が、他の部員の餌食になるのは当然かつ仕方の無いことなのだ。

「三上、贅沢〜」
「自分ばっかモテると思っていい気になりやがってー」
という野次が飛ぶ一方、テーブルの上のお菓子は見る見るうちに姿を消した。
「食べるくせに文句言うんじゃねぇ!」
着実に減っていくテーブルの上のお菓子の中から小ぶりの包みを取り上げると、笠井は三上へと向き直る。
「先輩、俺もこれ貰って帰りますね」
へらりと笑みを浮かべ、それは本当に軽い冗談のつもりだったのだ。
「あ、そうだ。誕生日おめでとうございます。―――代わりに食べますか?」
恩恵に与った故の社交辞令の祝いの言葉に加えて、先程冷蔵庫から取り出し、封を切ったばかりのカップを差し出したのは。
「ん」
長い指がカップに刺さったスプーンを掴んで、形の良い唇がぱくりとそれを食む。
「…ん、甘ェ」
一口後にはスプーンは元のようにカップに戻され。
三上は言葉とは裏腹に、妙に満足そうに笑みを浮かべてみせた。

甘いものが嫌いなら、そこは断るべきだろうとか。
そうでなくても、「いらねぇよ」といつもながらのぶっきらぼうな言葉が返ってくるとばかり思っていた笠井は、素直に驚いた。
甘みを舐め取るように、ぺろりと唇をなぞった三上の紅い舌が脳裏にちらつく。
嫌がらせかと心中で悪態をつきつつ――必要以上にドキドキと高鳴る胸に気付かないフリで、笠井は自室までの廊下を急いだ。
手には手作りのお菓子と、食べかけのプリン。
甘いもの嫌いの三上が、唯一プリンだけは大好きなことだとか。
そんな三上に、意中の後輩がいることなど。

―――笠井はまだ、知りはしない。

HAPPY BIRTHDAY MIKAMIvv



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| 笛≫三× | 17:43 | comments(0) | - |
15 悩殺

藤代誠二は画策中だった。

 *

「キャプテンと既成事実というものを作りたいと思います」

突然「はい!」と挙手をした藤代が、大真面目な顔でそう言った。
大真面目な顔の上に、今は普段使用することなど到底ないだろう眼鏡という小道具をも身につけている。
裸眼でさえ視力が2.0を軽く越えている藤代だ。おそらくそれは伊達眼鏡なのだろう。
そしておそらくそれは、さあ今から真面目なこと言うぞ、真面目な話するぞ、という心意気の表れだったに違いない。
悲しくとも、その心意気は完全に空回りをしており――本来知的アイテムであるはずの眼鏡は、返って藤代のアホらしさを助長する働きしかしていなかったのだけれど。

(ここまで胡散臭いのもある意味才能だよね…)

そんな親友の姿をぼんやりと眺め、笠井は冷静にそう思った。
もちろん、藤代の話を真面目に取り合うつもりもない。
「ふーん、そう。じゃ頑張って」
さらりと話を終わらせようとした笠井を、藤代が慌てて引き止める。
「ちょ、待って待って待って、たく!」
がっしと掴まれたトレーナーの裾は、当然離してもらえそうにもなく。
笠井は藤代の恋愛相談に、無理矢理付き合わされるハメになったのである。
―――恋愛相談と呼ぶには微妙なものであったのだけれど。

「…というか、何。あの人不能なの?」
なにしろ事の経緯を聞いた笠井の最初の一言はそんなものだった。
普段あれだけアプローチをしかけていて、今更のこの話だ。笠井の言葉も頷ける。
「お、おま…!」
しかしストレート過ぎる笠井の物言いに、藤代が(いろんな意味で)非難の声を上げれば、笠井はこくりと首を傾げてみせた。
「違うって?じゃあお前に色気がないのが悪いんじゃない?」
「がーん!」
『色気が無いんじゃない?』ではなく、『色気が無いのが悪いんじゃない?』である。
色気が無いのは全面肯定なのである。
そりゃ確かに色気は無いけれど。
眼鏡をかけても胡散臭いだけだけれど。
そうはっきり言われては傷つくというもので、流石の藤代もショックを受けるというものだ。

「例えば、それ」
そうしてそんな藤代を完全に無視して伸ばされた笠井の指の先。
指し示されたそこには、一人の男がテーブルにうつ伏せて寝息を立てていた。
「三上先輩は、寝てるだけでも色っぽい」
「え」
自分の恋人を見つめてうっとりと頬を染める親友に、藤代は当然のことながらついていけない。
「い、色っぽい?」
「色っぽい」
「既成事実作りたくなる?」
「欲情したv」
ほわりと笑う親友は可愛いのだが、言っていることはけっこうえげつない。
目の前で眠る男は、ただすかーっと間抜けな寝顔を晒しているだけだ。
恋は盲目。そして藤代はやっぱり、アホであるので―――。
「そっか、よく解んないけどこういうのが良いのか…!」
結局恋愛相談は、微妙ながらに間違った方向へ進むのである。

翌日。
渋沢のベッドに侵入した藤代は結局、既成事実を作ることはできず。
「馬鹿だな、藤代。お前はそういうことはしなくていいんだ。お前は三上とは違うだろう?」
渋沢のそんな言葉と笑顔に、しかしけっこう満足をしたのだという。
一方その言葉を藤代から聞いた笠井は、渋沢を(三上狙いの)敵と見なしギリギリとジェラシーを燃やし。

そうしてその話を後日聞かされた三上は、
「つーか既成事実作る前に、カップル自体できてねーじゃんあそこ」
と、極々ごもっともな意見を述べたのであった。



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| 笛≫×三 | 17:40 | comments(0) | - |
12 花束

「あ、おはよう御座います」
明らかに、世間一般からズレた起床時間。
目を擦りつつ起きてみれば、そこにはスーツに花束を抱えた同居人の姿。

「なに。プロポーズにでも行くの」
思った通りに問うてみたら、明らかに機嫌を害した半眼が返ってきた。
「…それ嫌味ですか?」
「あ」
―――こいつの片想いの相手、こないだまで俺の彼女だったんでした。

 *

友達の結婚式だったと言いながら、スーツから普段着に着替えた笠井は手ごろな空き瓶に花を活け始める。
「あ、ブーケ?お前受けたの?」
キッチンのテーブルに頬杖ついて、ぼんやりその様子を眺める。
「何で男の俺が受けなきゃなんないんですか」
笠井は俺の問いに完全に呆れた表情で。
だけど次の瞬間には、綺麗に整った花の束に満足そうに笑みを零す。

「皆持って帰ってたんで、俺もちょっと貰ってきたんです」
「…ふーん。お前そういうの好きだっけ?」
同じ学校だった中学の頃から、こいつがこういうのを弄っているところは見たことがない。
几帳面で物静かに見えて、だが実際は人並みには男染みて――以外とガサツなところもある後輩。
「ええ、まぁ特別好きってわけでもないですけど…。嫌いじゃないですよ」
場が明るくなるし。
そう言って、テーブルの真ん中に置かれる即席の花瓶。

場が、ふわりと和むのは多分、花のせいだけじゃなく。
あの頃から変わらない、目の前の男の効果。
昔から無意識に、気に入っていたのはこの空気。

「……じゃあ俺のことは?」
「は?」

「スキ?」

きょとんとした猫目を真っ直ぐに覗き込んだ。
子供染みた問いかけに、しかし相手の顔は真面目に紅く染まる。
「ッ、嫌いですよっ!いっつもそうやって、人のことからかって…!」
未だ素直にならない態度は焦れるものながら――「何言ってんですか?」と大真面目に返されていた以前に比べれば、これは目覚しい進歩だろうか。

例えば『嫌いじゃない』と笑顔を向けられる、動物でさえないそれにまで感じる、ささやかな嫉妬をお前は知りもしないだろうけれど。

いつかお前が、それを望むなら。
神に許されぬこの想いを、お前に告げようとそっと心に決めた。
人々に――花にまでも祝われて縁を結ぶ、そんな幸せな恋人同士にはなれずとも。



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| 笛≫三× | 17:29 | comments(0) | - |
10 頑張れオトコノコ

中西秀二、15歳。
武蔵森学園中等部3年、サッカー部所属。一軍レギュラー。
得意科目は数学・理科の根っからの理数系。

そして、そんな彼の趣味は――――。

 *

「ん、っ」
小さな声が漏れるのと同時、角度を変え触れあわせた部分がくちゅりと濡れた音をたてた。
細い身体は腕の中でひくりと痙攣し、しがみ付くように自分の背に回された腕は僅かに力を増す。
再び角度を変え息をつく、その合間に唾液に濡れた唇は甘い声で自分の名前を呼んだ。
「…っかみ先輩…、ちょ…」
制止の言葉を紡ごうとするそれはしかし、あくまでも上辺だけのもの。
それがバレバレな程には、見上げる瞳は漏れる欲情の色を隠しはしない。
(据え膳…)
可愛い恋人を腕に抱き、三上はほわんと幸せを噛み締めた。

時間外の選択教室で、無人の屋上で、男子トイレの奥まった個室で―――気付けばこういうことばかりをしている。
寮に帰ればいくらでも時間を共にできるというのに、僅かな時間さえもイチャイチャしていたいのは、若い身体のせいか、それとも付き合い始めたばかりの熱情がそうさせるのか。
最も、いつ人目につくか知れない。誰に見られるかもしれないこんな状況を、案外――楽しんでいる自覚は三上にもあった。
恥ずかしがる笠井は可愛いし、そのくせなんだかんだ言いながらもしっかり流されてくれる辺りは男のプライドを満足させてくれる。

しかし、それはそれ。
『誰かに見られるかもしれないスリル』と、『誰かに見られながらの羞恥プレイ』は明らかに別物なのだ。

最後にちゅ、と音を立てて唇を吸い、三上は笠井の唇からそっと自分のそれを引き剥がした。
ずり、と擦れる額同士が未練がましさをありありと示す。
自分を見上げる笠井の瞳が、安堵を浮かべる一方で物足りなさをも感じていることを知っていながら――三上は小さく息をつくと、眉を下げ困った表情を作った。
作らざるを得なかった。
「残念、時間切れ。…予鈴だ」
教室内はスピーカーが切られているのか、チャイムの音は遠くに響く。
それでも授業開始5分前を告げるその電子音に素直に従って、三上は笠井の背を抱いていた手を渋々離した。

―――最も、それは表面上の理由だ。
本当は授業など、いくらサボろうが構わないくらいには自分の頭を信用している三上だ。

笠井を教室へと戻らせて、授業が始まるまでの短い時間。
教室へダッシュした三上は、乱暴すぎる動作でその扉を思い切り開け放った。
「中西ィィィィ!!!!」
バァンとあり得ない音と共に響く絶叫。
しかし悲しきかな、そんな事態に慣れきったクラスメイトは今更驚くこともしてはくれず。
「てっっっめぇは、何度言や解るんだこんのストーカーが…!」
「え、なになに、何の話〜?」
憤怒の形相で怒る三上と、それをにっこにこと嘘染みた笑顔で迎える中西秀二その人を完全に無視してくれる。

「てめぇ、また覗いてやがっただろーが!」
「覗くなんて人聞き悪いなー。三上のことが気になって探してたら、たまたま三上がそういうことやってたんじゃん」
「探すな!つーか気になるな!!」
ここのところ、明らかに『たまたま』なんかでは済まされないレベルで人の視線を感じている。
「そんなこと言うんだー。俺のモノクロの世界に、色をつけたのは三上なのに…」
「そういう寒い台詞をサラっと言うな!科を作るな気色悪ィ!!」
原因は紛れもないこの男で―――中1の頃からずっと三上と同じクラスのこの悪友は、最近特に嫌がらせに余念がない。
実は笠井にだって一度は覗きが見つかってしまって、その後一週間は触らせてももらえなかった過去だってある。
それを怒ってみれば。
「そんなこと心配する必要ないのにねぇ〜。誰も笠井のことなんて見てないし☆」
とあっさりと返されて、拍子抜けと共にその意味深な言葉に背筋を冷たいものが走ったりもしたものだ。

しかし、どこか危機感が足りないのは自覚が無い故か。
「あ、ほら本鈴」
そう促されて、「もう冗談はいい加減にしろよ」と捨て台詞を残して席につく三上に、クラス中から無言のツッコミが飛んだという。

中西秀二、15歳。
武蔵森学園中等部3年、サッカー部所属。一軍レギュラー。
得意科目は数学・理科の根っからの理数系。
彼の趣味が『み』のつく固有名詞であることは、意外と有名な話である。



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| 笛≫三× | 17:23 | comments(0) | - |
13 ヤキモチ

朝チラッと顔を見ただけで、その機嫌の悪さは知れた。
部活という短い時間でも、共有すればその理由も解る。

―――そんな泣きそうな顔で、俺のところに来ないで欲しい。

 *

本人に言っても否定をするだけだが、実際三上は渋沢のことがダイスキだ。
口ではうるせぇうざいあの年齢詐欺、と罵っているものの、本当のところはそれにどっぷり甘えているフシがある。
渋沢のことを「偽善っぽいよねー」と陰でウワサをしていた2軍の部員が、次の週には三上の陰険なシゴキを受け、結果的に3軍まで地位を落としたことは2軍の部員の間ではちょっとした伝説であるし。
ここだけの話、渋沢の載った新聞や雑誌の記事を、三上がきっちりとスクラップしているのを笠井は知っている。

そんな三上だが、どうやら渋沢と喧嘩をしてしまったらしい。
朝から不機嫌オーラを撒き散らしては、下級生(と一部同級生)を恐怖の底に叩き込み。
そうして今しがた、突然笠井(と藤代)の部屋を訪れたかと思えば、藤代を蹴り出して居座ったのだ。
本人は隠したいのか、喧嘩をしていることすら口に出そうとはしない。
しかしあれほど、普段三上に構っている(小言を言っている)渋沢が一言も口をきこうとはせず。
そして三上が渋沢を避ける様子を見れば、状態は簡単に把握されてしまう。

渋る三上を説得して喧嘩の理由までを聞き出した笠井は、げんなりと力が抜けるのを感じた。
なぜなら、その理由というのが。
――どうやら最近、渋沢にしつこくつきまとっている女生徒がいるらしいのだが。
「あいつ性格悪いからやめとけ」と三上が釘をさしたところに、「よく知りもしない人間を、簡単に悪く言うもんじゃない」といつもながらの渋沢の説教が返ってきて――結果的には口論に発展してしまったのだそうだ。

(なに、その痴話喧嘩みたいな理由…)

痴話をするべき本来の相手は自分ではないかと頭を抱えつつ。
仕方が無いので、笠井は三上の頭も抱きこむ様に抱えてやる。

「もう…。しょうがないから、今日は頭撫でて慰めてあげますよ」
完璧に呆れた様子で――それでも三上のあまりの凹みっぷりに放ってもおけず、細い髪を梳くように指を滑らせた。
「…ナニソレ」
ふ、と浮かぶ笑顔はそれでも力がない。
日頃甘やかされ過ぎているせいで、たまに邪険にされればその分ダメージが大きいのだろう。
…それは全く、つまらない理由ながら。
渋沢の甘さを呪いつつ――笠井は心中で、(俺も大概か)と自嘲を込めて呟くのだった。

そうして翌日。
「三上、人の辞書に落書きをするなとあれほど言っただろう」
渋沢が何食わぬ顔で現れれば(もちろん譲歩だ)(甘いにも程がある)、嬉しいくせにそれを押し隠し――悪態をつきながら三上はいそいそと自室へと戻っていった。
全く、どちらが恋人なのか。
…と、そんなことを考えている笠井とて、実は。

「わーんキャプテン、聞いてくださいよ!!」
「何だ藤代…」
「たくが一人で寝ろっていうんですよ〜!!」
「だって誠二、おまえ寝相悪いじゃん!ていうか、何でもキャプテンに泣きつくのやめなよ!」
「…おまえ達…。普通、中学生は一緒には寝ないんだぞ…?」

―――それほど大差は無いのである。


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| 笛≫三× | 17:32 | comments(0) | - |